デザイン思考とソフトウェアデザイン

デザイン思考と聞くと、ビジュアルデザインに関することを想像しがちですが、プロダクトデザインやサービス開発にも用いられるイノベーションの技法です。デザインコンサルティングファームのIDEO社がデザインプロセスが注目されてから、次第にこの言葉を聞くようになってきました。


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デザイン思考はそれほど真新しい話ではありません。振り返ってみるとガイアックスで「スクールガーディアン」という世界初の学校裏サイトサービスを企画した時は、まさにデザイン思考的なプロセスで行っていたのだなと感じます。システム、オペレーション、マーケティングと機能が異なる部署のメンバーが集まって、試行錯誤しながらプロトタイプとなるサービスを企画し、協力して頂けるファーストユーザを探してサービスを提供しました。最初は全くシステム化されてもいませんでしたし、効率の悪いオペレーションとなっていましたが、ユーザのニーズに応えられるか否かを見極めて、フィードバックをもらうことは十分にできました。そういったフィードバックを受けて改善を行い今の形になって次第に近づいていったのです。学校裏サイト問題が2007年の7月に社会問題化してから、社内の有志数名で集まり、他の仕事も掛け持ちしながらも11月にローンチできたのは、フォーカスをプロトタイプに絞ったからではないかと思います。

一方で、ソフトウェアデザインにデザイン思考的なプロセスを持ち込むのはオペレーショナルなサービスデザインに比べて一段ハードルが高いと感じています。その要因はシステムの変更の難しさにあります。システムとはつまり体系のことです。プロトタイプを提供したところ、システムが目指していたコンセプトレベルで変更が必要となった時には、体系自体を変えなければならないためシステムを大幅に作り直す必要があります(時には0から作り直すこともあります)。つまりシステムデザインの世界に、デザイン思考を持ち込むためには、変化に強いシステムを作ることが前提条件となっているのです。

システムの業界では、変化に強いソフトウェアの制作方法として、アジャイル開発プロセスが確立されてきました。スタンドアップミーティング、イテレーション開発、自動テスト、リファクタリング、ストーリーポイント見積もり、継続的インテグレーション(CI)などのプラクティスはアジャイル開発の中から出てきたものです。

アジャイル宣言の一節に

我々は、
プロセスやツールよりも個人と対話を、
包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを、
契約交渉よりも顧客との協調を、
計画に従うことよりも変化への対応を、
価値とする。

とあります。
動くソフトウェアというのはプロトタイプ、顧客との協調というのはユーザ中心設計、変化への対応はフィードバックに基づいたプロトタイプの修正、といったようにデザイン思考とアジャイル開発は根底の思想でつながっているところがあるように見えます。

制作プロセスにおいても、デザインとテクノロジーの融合が重要で、デザイン思考とアジャイル開発の相補的な関係が良いプロダクトを作る土壌になるのではないかと考えています。